離乳食完了期から6歳までを対象とした冷凍宅配幼児食サービス「mogumo(モグモ)」が注目されています。
サービスを提供しているのは、2021年に設立された株式会社Oxxx(オックス)。メニュー開発や流通チャネルの構築をし、数ヶ月後にはクラウドファンディングを通してパイロット運用を開始。クラウドファンディング終了時の支援総額は、目標を大幅に上回る357%。ネクストゴールも目指すことになったmogumoが、小さな子どもを持つお父さん・お母さんに支持された理由はどんなところにあるのでしょうか?今回は同社の取締役CMOである藍沢啓人さんにお話を伺います。
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設立まもない2021年、mogumoに参画
――大学卒業からこれまでのご経歴を教えてください。
藍沢さん:新卒でリクルートホールディングスに入社後、SUUMOに出向してUXデザインを担当しました。その後、退職して沖縄・宮古島に移住しました。このときは個人事業主としてWebマーケティングの仕事をしていました。
その後、東京に戻ってメディア系の会社でディレクション業に従事しました。さらに約2年経って事業が一段落すると、少し休憩した後、マッチングアプリ『Omiai』を運営する会社でPMとして働きました。この事業が次のフェーズを迎えるころに、現職の取締役CMOに就任しました。
――約2年周期で転職を重ねていらっしゃいますね。
藍沢さん:ある程度その業界・仕事を知ると、そのときやっていることと正反対のことをやりたくなるんです。大学時代はクックパッドの子会社でインターンをしていたので、新卒では規模の大きい会社に入りたくなったし、東京の大企業をある程度知ったら沖縄に移住したくなり、個人事業主として働いたあとは起業の一員として経営に関わりたくなり。
そのときどきの自分にとっての未知の世界を覗いてみたくなります。最終的にどうなりたいかがまだ決まっていないから、いろんな体験をしたいというのもあるかもしれません。
――マッチングアプリと冷凍幼児食もかけ離れていますもんね!
藍沢さん:オックスで働くことになったきっかけは、宮古島に移住する直前頃に知り合った黒瀬(同社代表取締役)から、「幼児向けの冷凍食品宅配サービスを立ち上げたいんだけど、マーケティングの相談に乗ってくれない?」と連絡が入ったことでした。そのときもやはり、自分はまだ子どもがいないし、通販業界のことも食品業界のことも全然知らないという理由で興味を引かれました。
新しい環境に飛び込むときには、自分でルールを作る
――それで、会社のある福岡に移住することになったわけですね。
藍沢さん:意外となんとかなるもんなんですよ。宮古島移住のときもそうでしたが、その環境に飛び込んでみたらなんとかなる。ただ、どんな環境に飛び込むにしても、自分のなかで最低限のルールを設けて、それを守ることは大切です。
たとえば僕の場合、福岡に移住後は仕事と関係なくプライベートで飲みに行くことが増えましたが、翌日の仕事でもベストなパフォーマンスを発揮できるよう、睡眠時間は死守しています。ちなみに、東京時代は飲みに行くにしても、仕事に関する有益な情報を得られる相手としか行かなかったから、結果的に視野が狭まっていたように思います。
自分に子どもができたらmogumoを利用したい
――オックスに入社してよかったことはなんでしょうか?
藍沢さん:一番は、自分の仕事に社会的意義を感じられることです。将来、子どもができたら、家族にもmogumoを利用してほしいと思うし、このサービスを提供していることは、自分にとってすごく誇れることだなと思っています。
思えばオックスで働き始めるまでは、自分の仕事が社会や人々に与える影響なんて、それほど考えたことがありませんでした。だけど、黒瀬の相談に乗ったり、子どもが生まれる同級生が増えている現実に目を向けたりするうち、課題解決にチャレンジすることへの意欲が大きくなっていました。
もっというと、若いころは家庭を顧みず仕事していた友だちが、土日をしっかり休んで家族と過ごしていることにも知らずと影響を受けていた気がします。自分のなかで価値観が変わってきたこともあって、この仕事に強いやりがいを感じられているように思います。
――子どもができたらmogumoを食べさせたいということは、それだけ品質にも自信があるのですね。
藍沢さん:もちろんです。管理栄養士の協力のもと、幼児期に必要な栄養素をカバーできるメニューを展開していますが、子どもたちに喜んで食べてもらうためにはおいしさも不可欠なので、試食会を何度も重ねています。ご協力いただいたご家族にテレビ電話などでインタビューさせていただくこともあります。
ターゲットは子どもである一方、インタビューに答えてくださるのは大人、購入するのも大人ということで、両方の視点が大切なので、商品開発において考えるべきことはたくさんあります。
おいしさは大前提、食事が楽しくなることが大切
――子どもにおいしく食べてもらうためにどんな工夫をなさっていますか?
藍沢さん:おいしさにこだわっていることは大前提として、パッケージデザインも追求しています。今、mogumoのメニューは24種類あるんですけど、その一つひとつに違う動物のイラストをあしらっています。すべてオリジナルキャラクターです。男の子も女の子も好きなものってなんだろう?という観点から動物にしました。
また、初回限定で同梱している「キッズメニュー」もご好評いただいています。メニュー表には、それぞれのメニューの写真とともに動物のイラストを載せており、お子さんに、自分が選んだメニューを食べられるという楽しみを味わってもらえる仕掛けとなっています。最近では、動物キャラクターに声をあてながら「ごっこ遊び」できる「アテレコセット」のおまけも人気でした。
――そういったアイディアはどこから生まれるのですか?
藍沢さん:代表の黒瀬をはじめ、子どもがいるメンバーが日々の生活のなかで思いつくこともありますが、ある種の競合として参考にしているのはベネッセです。ベネッセは、子どもが楽しみながら勉強するための仕掛けを作るのが得意ですが、それと同様に、子どもが楽しみながら食事できる工夫を考えることもすごく大切です。
とはいえ、子どもにとって食事の時間が楽しいものとなるためには、手作りのおいしさや、家族みんなが食卓に顔をそろえることもとても大事ですが、忙しい毎日のなかではなかなかそれが叶いませんし、なかには、仕事に育児に奔走しているひとり親家庭もあります。そこで、Mogumoがそういう人たちの頼もしい味方であり続けられるよう、日々、改良を重ね続けています。
mogumoはレスキュー的な存在、冷蔵庫にあれば安心
――ターゲットの親御さんに満足してもらうための工夫についても教えてください。
藍沢さん:これはいろんな商品を展開してみてわかったことなのですが、誰でも簡単に作れる商品も、反対に作るのが難しい商品も売れにくいです。
どういうことかというと、たとえば直近でいうと、おにぎりは予想に反して全然売れませんでした。私たちとしては、忙しい朝の朝ごはんにもなるし使い勝手がいいと思ったんですけど、買うほうとしては、自分でも作れるものにお金は出したくないと考えたようです。
反対に、調理に手間がかかりすぎて家庭料理とは言えない商品も売れ行きが悪いです。大人が食べるぶんには、そういうメニューって特別感があっていいものだと思うのですが、子どもの日々の食事と考えるとしっくりこないんでしょうね。
じゃあどういうものが人気かというと、豊富な種類の野菜を摂取できるミネストローネや、唐揚げをはじめとした揚げ物などです。栄養価が高いものや、家庭料理だけど作るのが面倒なものなどは、冷凍食品に頼りたいと思う気持ちに頷けます。
半年~1年は日持ちするから、賞味期限を気にせず常備できるし、必要なときにすぐに活用できる
――みなさん、どのくらいの頻度でmogumoを利用されているのですか?
藍沢さん:人それぞれですけど、基本は、mogumoを「レスキュー」的なものととらえていらっしゃる方が多いように思います。仕事で遅くなった日など、「今日は料理する時間がない」というときに、冷蔵庫に常備しているmogumoがあると安心できるようです。
どのメニューも、製造日から半年~1年くらいは日持ちするよう設計しているので、賞味期限を気にすることなく、必要なときにぱっと取り出してレンチンできることもご支持いただけている理由かと思います。
子どもに関する相談には無料で回答
――ユーザーの声を直接聴く機会も多いのですか?
藍沢さん:商品やサービスに対するご意見や感想をメールやLINEでいただくこともありますし、お子さんの食にまつわる相談を受けることもあります。
基本的にLINEで無料相談を受け付けているのですが、「子どもが食に関心を示さないんですけどどうしたらいいですか?」「どうしたらもっと食べてもらえますか?」といった相談は多いです。その一つひとつに、管理栄養士が回答をしていますが、そうしたやりとり自体、商品開発に活かされています。
「簡単に作れるもの」も「手が込み過ぎているもの」も売れにくい
――もしあればですが、現在の課題を教えてください。
藍沢さん:ありがたいことに毎月新規のお客さまが増えていて、製造が追いつかなくなってきていることです。
基本、定期通販なので、現状は、新規のお客さまの購入可能点数をセーブすることでなんとか凌いでいますが、年内には、みなさんにご希望の数を購入していただけるよう、新しい工場の導入を進めているところです。
また、現状はSNSでの周知がメインですが、2023年下半期からは直接商品を手に取ってもらえる機会も増やしたいので、イベント出展やスーパーでの販売を視野に入れて動いているところです。
ユーザーと一緒に成長し、将来はファミリーブランドを確立
――将来的な展望についても教えてください。
藍沢さん:mogumoは、現在は幼児食に特化していますが、将来的にはファミリーブランドとして認知されたいという想いがあります。その実現のためにも、まずは短期目標として育児サポートに力を入れていきたいですし、健康の分野にも進出していきたいです。
栄養バランスのいいメニューを開発することもその一つではありますが、たとえば、スマホが普及した今の時代においては、子どものころからアイケアを意識して生活することもとても大切。子育てにおける大小さまざまな課題を丁寧に拾い上げながら、ユーザーと一緒に成長していけたらいいなと考えています。
――ありがとうございました!
(取材・執筆:松本玲子 編集:讃岐勇哉)