ITの進歩とともにWebサイトの利用が増えてニーズが高まってきている「WEBデザイナー」。その中でも「デザイナーの中でキャリアの可能性を広げるような存在になっていきたい」、と力強く答えてくれたのは、株式会社xenodata lab.のCDO (Chief Design Officer)を務める坂元麻貴子(さかもとまきこ)さん。(以下もちさん)
常にスキルアップを目指し、新しいジャンルにも積極的に挑戦していくことを楽しんでいるもちさん。今回は、「なぜ、デザイナーの道に進んだのか?」「スクールを立ち上げたきっかけ」など、バックグラウンドや素顔、リアルな本音に迫っていきます!
目次
就職活動を通じてデザインへの「興味」が「決意」へ変わる
半年ほどで退学をしたのですが、その理由として「給料だけでやっていけるんだろうか」「肉体労働だけど自分にはできるのだろうか」、とか自分が美容師として働いていけるか不安になったんです。
そこで、美容師さんと直接話す機会をいただき「やっててよかったことは何ですか?」「大変なことは何ですか?」、と聞くと、割と皆さん後ろ向きな発言が多くて…。そこに不安を感じてしまいました。「美容師さんは、仕事が好きで楽しんでやっているんだろう」、と思っていたのですが、現実はそう甘くなかったです。
美容師の夢を見ていたのですが、現実とのギャップを感じて大学に進学しようと決意しました。
その当時は、流行りだったのか経済学部に行く人が多かったんです。経済学部を志望する人を見ながら「こういう勉強をした方が良いのか」「仕事に役立ちそうだな」と、正直軽い気持ちで大学に入りました。
3年になって就活を始めたんですが、募集している職種が「営業職」「一般職」「事務作業」しかなくて…。それで「私はこれから営業をやっていかなきゃいけないのか」「リクルートスーツ着て、髪も黒く染めて一生こういう仕事をやってくのか」と思ったら、少し違和感を覚えたんです。
実はそのときに、目ではクリエイティブ職を追っていることには自分で気づいていました。でも、何も経験もないし、美大でもないし、ということで無意識の内にはじめから諦めていたんです。
でも就職活動を通して「私のやりたいことはやっぱりデザイン系だな」と確信を持てたんです。
「これから卒業したら何十年と働かなければならない。どうせやるなら自分が100%打ち込めるものが良い」と思い、大学4年のときにダブルスクールで夜間の専門学校・デザインの専門学校に通い始めました。
でも、私の家が割と古典的ということもあり、良い大学入って、良い企業に就職して、手に職つけて…と古い価値観を持っていたんですよね。なので、「美大に行って絵で食べていきたい」と言ったら両親はショックを受けるのではと思い、ずっと言えなかったんです。でも実際に岐路に立たされた時に、「いや、一生やっていくんだったら、好きなことやりたい!」みたいな。
美容師や税理士を目指そうかと紆余曲折した時もありましたが、結局どれも中途半端で、やっぱり自分を騙し切ることはできないんだなと思いました。
3.11をきっかけにITへと転職
無事にデザインの学校に卒業したので正社員になれると思ったんですが、3.11の地震が起こったんです。私は、元々グラフィックデザインの勉強していたので、まさに広告業界がすごい大打撃を受けて…。私の会社も影響が出てしまったので、結局正社員になれなかったんです。
当時は落ち込んだんですが、でもそれが現実を知れるきっかけになりました。美容師のときも言いましたけどグラフィックデザインもお金や労働が厳しく似たような世界だなと。
これからの時代は、Webができないと、デザイナーとしても、先細りしていくだけだと直感的に感じとって。それで、未経験の世界だったんですけど、IT系の方に転職をすることに決めました。
アルバイトから入社2年半で正社員に
当時は、GREEやモバゲーなどを筆頭に、ソーシャルゲーム全盛期でした。なので、ソーシャルゲームの会社は予算が多いようでしたので、未経験でもOKという求人がたくさんあったんです。
そのときに私が配属されたのは「新規事業開発部」という部署。そこでは主に、ゲームの他にもサービス系のアプリ・Webサービスの開発を行っていました。ただ私の仕事内容はと言うと、その会社が出すプレスリリースのページをコピペして、新しい文章入れて公開するような事務的な仕事をはじめはしていました。
最初は事務作業ばかりで契約書を印刷して、製本して、ハンコもらうとか、電話にでて取り次ぐとか、そういうこともやっていましたね。
でも「正社員になるまでは辞めないぞ」という強い意志を持っていたので、2年半かけてアルバイトから契約社員、そして正社員へとなることができました。
プロフェッショナルになるにはストイックさが大切
例えば、新規事業開発部なので、皆さんが新規事業の企画や発表をする場があると、主体的に参加させてもらっていました。そこで「私も作ってみたんですけど、見てもらえますか?」みたいな感じで、企画書も提出していました。
デザインに関しても、「新しいアプリを作るんだけど、UIデザインできる人を探している」という話があれば、未経験でしたが「やれます」と手を挙げて、携わらせてもらっていました。
でも本当はできないのに「やります、やらせてください」と体当たりでやっていたので、結局は土日出勤して、泣きながらデザインを作る日もありました。
でも私はそれが嫌だったので、積極的に新しいことにチャレンジしていったという感じでしたね。
良いデザイナーの特徴|人柄がよく柔軟性がある人
デザイナーって、すごく我が強くて、自分なりの美学や哲学みたいなものを持っている人が多いんですよ。(笑)だからもう自分が「これが正しい」とか、「こういうやり方をすべきだ」みたいなのを持っていると、頑固で聞かないんですよ。それでチームで集まると、ぶつかることも多いですし、みんながみんな自分の軸を通そうとするので、デザインチームとして、まとまらないことは結構ありました。
なので、上手くみんなを包み込んで、まとめてくれる上司はいいなって思いますし、貴重だなと感じます。
さらにその中でも、やっぱり私はこういう見た目が好きだとか、僕はこういう見た目が好きだっていう流派が細かく分かれていて。
機能面に関しては、割とやり方の違いみたいな、例えば、「デザインスプリントをやった方がいいよ」っていう人もいれば、「アジャイルやるべきだ」とか、そういう手法の流派みたいなのがあったりします。
CDOとしてデザインに携わる一人ひとりの強みを生かして臨機応変に横断していく
私の場合は、無理やりデザイナーたちを経営層が話し合って決めているような上流工程に入れて、バリューを発揮することに躍起にならなくても良い方針にしています。デザイナーがデザインを使ってどうバリューを発揮できるかではなく、もっとフラットな目線で「組織としてどうするのが今一番パフォーンスが上がるんだろう?」と考えるようにしています。
例えば「今はカスタマーサポートをもう少し強化した方がいいよね」じゃあその部分に対してデザイナーが何か貢献できる部分はあるかな?という風に、デザイン主体ではなく、経営とデザインを統合して、より価値のあるサービス、プロダクトを生み出すためには、今何をすべきなのかを常に意識しています。
あとは、カスタマーサポートでよく来る質問とかで困ってるものがあれば、私たちでコンテンツを作り、サイトの更新や資料を整理をしています。
クリエイティブを作るっていうよりは、システムを一緒に整えていくイメージですかね。サイト回りは私たちが1番よく見ているので、LPやコーポレートサイト、ヘルプページとかを私たちが実装や更新をして、お客様の要望に応えながら改善しています。
デザイナーから経営サイドに入るためには、自分が経営者になるしかない
その中で「経営サイドに入りたい」という方にアドバイスするとすれば、やはり自分が経営者になってみるしかないと、今は思います。これは自分が経営者になってみて確信した部分です。
それまでは、本を読んだり社長から話を聞いたりすれば何とか経営サイドに寄り添えるのではないかと思っていました。しかし実際に自分が経営者になってみると、全然見えてるものが違うし、感じることも違うし、これはやっぱりやってみないと絶対分からないなと。
もし私が今「自分がやってる会社でCDOを雇います」、となったら、絶対経営の経験がある人がいいと思ってしまいますね。やはり経営の経験がある人とない人では絶対的に越えられない壁があるのは事実なので、実際に自分で会社を作って経営者になってみるのがオススメです。
個人事業主はまた別で、個人事業主はデザイナーの延長線でやれちゃうんです。仕事を請け負って納品してっていうやり方なので、ほぼ会社内での通常のデザイナー業務とやってること一緒なんですよね。なので普段とは違う何か新しい学びがあるかと言うと、そこまでは多くないというか、あくまで延長線上って感じなんです。
やっぱり大事なのは、会社を作って、ある程度自分で事業を作ってみるっていうところですかね。受託ではなく、自分で事業を作って動かしてみるっていうのをやると、すごく経営者の気持ちが分かって新しい発見や学びがあると思いました。
スクールを卒業しても十分に戦えるスキルが身についていないのが問題
ちょうどそのころ、オリエンタルラジオの中田敦彦さんの「YouTube大学」が流行り始めた時ぐらいでした。当時は、デザイナーになるためには美大や専門学校に入るしか道がないと言われていて、未経験からデザイナーになる道が本当に少なかったんです。
デザイン教育というものは閉ざされた世界というのが当たり前でしたが、オンライン上での教育が広まるにつれて、デザイナーの道もこれからオープンになっていくべきだし、なっていくんだろうな…と感じていました。
その時たまたま友人からデザインのオンラインスクールのメンターに誘われて、興味があったので「いいよ」と答えたのがオンラインスクールにかかわる第一歩でした。
カリキュラム内容が悪いわけではないですが、これだけでは卒業しても全然デザイナーとして生きていくレベルには達しないっていうところがずっと気にかかっていました。全てのカリキュラムを終えた人も、全然仕事が取れなくて困ってる人が、いっぱいいるっていう状況だったんです。
その辺が、生徒に教えている側としては、どうしても辛くなってしまって、1回離れて、他のスクールに異動しました。
そこでもメンターとして入ったのですが、割とスパルタで厳し目のカリキュラム内容だったので、最初にいたスクールと比べるとスキルは身に付けてもらえる実感がありました。それでも3ヶ月半しかカリキュラムの期間がなかったので、厳しく詰め込みでやっても、多くの生徒が卒業した後に苦労しているという事実は変わらなくて…。「デザイナーを諦めようと思います」「この先どうしたらいいのか分かりません」、というお悩み相談をたくさん受けていました。
Twitterを見ると、先輩デザイナーたちが、そういった駆け出しデザイナーたちに対して、「最近の駆け出しはなってない」と、物申すみたいな人たちがだんだん増えてきてて、これはまずいなと。
本来は業界を盛り上げるために教育に携わりたいなって思っていたのが、どちらかと言うと、若手の質を下げてしまっているんじゃないかと感じはじめていました。これを放っておくと、10年後のデザイン業界って、おそらく衰退しているというか、レベルが下がってるんじゃないかと不安になりました。
この10年間で、IT系のデザイナーたち・上の世代の先輩たちや、我々世代が頑張ってデザイナーの地位を我武者羅に築いてきた部分があると思っていて、それがまた元に戻ってしまうというか、積み上げてきたものが全て崩れてしまうんじゃないかという、すごい危機感を覚えまして…。「このままではいけない。なんとかこの流れを変えないと!」と思ったのがスクールを立ち上げたきっかけです。
「NOT DESIGN SCHOOL」に込めた想い
今ある多くのスクールは、皆さんビジネスでやってるので、どうしてもその生徒をしっかりと育てるというよりも、いかに生徒を集めるか、いかに商品を売るかというところに重点を置いています。それ自体はビジネスとして当たり前のことですし、悪いことだと糾弾する気もありません。でも「1ヶ月でデザイナーになれます」「月30万稼げます」「ママでも隙間時間で働けます」みたいな、甘いことばっかり言っているのが状態化してしまっていることはあまり良く思っていません。
実際デザイナーは、そんな甘い仕事ではありません。多くのデザイナーは日々想像以上にインプットや試行錯誤を繰り返していますし、その積み重ねがあってこそいい意味でプライドを持っているんです。なので「NOT DESIGN SCHOOL」では、卒業後にきちんと即戦力として活躍できるデザイナーにするために、学習期間を「1年間」とります。
自分の強みや弱みを把握し、その上で複数のメンターさんと40回以上のセッションを通してビジュアルデザインのスキルを磨きつつ、将来どのようなデザイナーを目指すのが自分に合っているのか、キャリアプランの戦略も立ててもらえるようにしています。
またデザイナーとして生きていくには、デザインと同じくらいビジネススキルも必要です。なので私たちは、デザインスキルとビジネススキルをどちらも磨いてもらえるよう、制作プロセスを言語化してまとめてもらったり、プレゼン大会を定期的に実施したりと新しい試みをたくさん盛り込んでいます。
生徒一人一人を即戦力プロデザイナーにするために本気で内容や仕組みを考えて日々ブラッシュアップしています。
生徒と一緒に成長し、いろんなジャンルで活躍できるデザイナーを増やしていきたい
より教えることの層を厚くしていって、実際に活躍できるデザイナーを、いろんなジャンルで増やしていきたいと思っています。
今のオンラインスクールって、なぜかフリーランスのWebデザイナーを目指すっていう、一本道なんです。おそらくWebデザインが数ある様々なデザインの中で比較的教えやすいこと、市場的に需要が高いこと、そして自由な感じがする「フリーランス」というものに憧れる人が多いことが理由だとは思います。
でもデザイナーには、もっとさまざまな働き方があります。なのでデザイナーを目指す人には「どういうデザインが好きなのか」「どういうキャリアを進みたいのか」、というのを、ちゃんと自分自身と向き合って考えてもらえるようにしたいんです。そのためにNOT DESIGN SCHOOLは、多くの選択肢を与えられるようなスクールにしていきたいなと思っています。
(取材:栗林和矢 執筆・編集:suzu)