厚生労働省が、仕事や職業生活に関することで強い不安・悩み・ストレスを感じている労働者の割合は、令和2(2020)年で54.2%*と発表しました。同時に医療現場でも、人口の減少、若い世代の職業意識の変化、医療ニーズの多様化などによって、医師や看護師の逼迫や疲弊も大きな話題となっています。
そんな中、「働く人のこころを守る」をビジョンに掲げ、看護師に特化したメンタルヘルスケアサービス「ナースビー」が注目されています。サービスを提供しているのは、2022年に設立された株式会社Plusbase。急性期病棟の看護師の54%が抑うつ症状を抱えながら働いている現状に着目し、メンタルヘルスケアをさまざまな形で提供しています。
今回は、同社の代表取締役である氏家好野(うじけ よしの)さんに「なぜ、メンタルヘルスに関心を持ったのか?」「起業して大変だったこと」など、バックグラウンドや素顔、リアルな本音に迫っていきます!
氏家好野
医療経営士。早稲田大学在学中から、ヘルステックベ゙ンチャーやリクルートのヘルスケアサービス立ち上げに参画。自身のメンタル不調による休職の経験から、Plusbaseを共同創業。
電子カルテや治療アプリなどのヘルスケアのシステム開発会社、株式会社ispecや、精神科特化電子カルテメーカー、株式会社レスコなど、複数社でヘルステックbizdevとして参画中。
2023年に自由民主党のリバースメンターに就任。デジタル政策に関して政策提言なども行っている。
目次
幼少期の計7年を海外で過ごす
親の教育方針もあって、小学校2〜6年生までの4年間はアメリカ、中学1年生〜高校1年生までの4年間は日本で寮生活をしました。高校2-3年生でアメリカに戻り、大学は早稲田大学に入学。在学中に、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」に参加して、イギリス留学に行きました。
母はアメリカの大学で日本語を教えており今もアメリカにいます。
キャリアに迷いながら、高齢者のシニア支援へ
当時、高齢者シニアに関する活動もしていたので、そのことも含めて留学プログラムの代表の方に相談をしたんですよね。そうしたら、「自分の軸として今関心があるものを深ぼった方がいいんじゃないか。将来、大手の名前じゃなくて自分の名刺で戦う可能性もある」、と言われました。
シニア支援に関心を持ったのは、幼少期に感じた年齢とキャリア形成の厳しさ
「ソーシャルビジネス」という言葉を初めて聞いたとき、社会問題をビジネスで解決したいと思ったんです。なぜなら、NPOなどの限界を知っていたから。
あとは、ヘルスケアベンチャーでインターンをやって健康に関わっていたこと。身近なところでは、70歳を過ぎてからの父のキャリアが年齢のみで職が見つからないこと。仕事をして誰かの役に立ちたいと思っているのに、結局1日中テレビを見るしかない生活になってしまうんですよね…。
これは超高齢化社会である日本としても、年齢で差別するような社会に疑問を感じました。なので、シニアが活躍できるビジネスモデルを考えようと、イギリスのビジネススクールに行きました。
個人での力に限界を感じ、リクルートに入社
留学に行かれて戻ってきてからの学生生活やキャリアってどんな感じだったんですか?
個人ではできなかった社会課題解決ができるかもしれないと思い、リクルートの面接を受けました。
コミュニティマネージャーとして副業をしつつ、気づいたら本格的に起業していた
ちょうど同時期、看護師の友人が「始動」という、経産省主催の起業家育成プログラムに参加するので、手伝ったのがナースビーに繋がるきっかけの1つ。彼女はピッチを勝ち進み、シリコンバレー派遣組にも採択されました。自分がメンタル不調を経験したこと、彼女を手伝う内に医療職のメンタルヘルスの問題が自分ごとになったこと、彼女を友人として手伝いたいと思ったことが、共同創業した理由です。
そんな時に、たまたまイベントでNewsPicksのコミュニティーチームの方にお会いしました。その方に「副業でいいから手伝いに来て」、と言っていただき、NewsPicksで念願のコミュニティマネージャーとして働き始めました。
その数ヶ月後に資金調達が決定。なので、コミュニティマネージャーになろうと思ってリクルートを辞めたのに、気づいたら本格的に起業していました。
女性起業家としてのメディア露出とリアルの乖離
当時コロナ禍で、スタートアップで若い20代のチームでやっている点も、メディア映えして色々なところで取り上げていただきました。 ただ、PRが内部との距離を生むようになったのも事実です。表に出る人間とサービスを作っている中の人間とで、それぞれ不満を抱えながら動いていました。メディアに取り上げられれば取り上げられるほど、メンバーとの距離が生まれてしまいましたね…。
メンバーには言えない、共同創業の苦悩
氏家さんは代表とメンバーの両方を認識しつつ、乖離が生まれた中でどう動かれていたんですか?
メンバー間で1つ大きな問題だったのは「医療職」「エンジニア」「ビジネス」と、お互いの共通言語がなく理解しにくくて対立してしまうこと。実際、私と他分野のメンバーも一時期対立しました。 その時に、knotという医療系のアクセラレーションプログラムに採択いただきました。本来は、代表だけが出るものですが、Plusbaseだけ医療職メンバーを全員呼んで参加しました。このプログラムに入ったことで、 医療職メンバーはビジネスのことがわかり、ビジネスメンバーは医療のことがわかる。 お互い対立の理由は、カルチャーが違うのが原因だと思います。医療は命を預かるので失敗は許されない。でも、スタートアップは小さい失敗を繰り返して大きな失敗を防ぐという思想。お互いの異なる背景を理解した上で、チームになれたことが大きかったですね。プログラムに感謝しています。
スタートアップはこれで大丈夫なのかとか、調達している投資家からなにか言われるかなとか不安が多いです。優勝すること、認知を得ることって、自信になるし本当に入ってよかったと思っています。
メンバーの団結が強まりました。
共同代表との方針の違いがあっても、会社は動いていく
周りから「順調そうだね」とは言われていたんですが、実際はそんなことはなかったです。
ただ、それが実力や実績ではないという恐怖や自信の無さは常にあります。メディアへの露出が増えるほど「調子がいい」「実績がある」、とどうしても思われてしまう。 このギャップが苦しいというか悩みますね。
「女性だから」と取り上げていただくこと自体悪いことではないですし、視点を変えればチャンスもたくさんあります。
でもKARINさんの読者の多数を占める女性読者に何かメッセージを届けられればと思い、あえて使わせていただきます。
ユーザーさんが使ってくれる限り、常にサービスを改善し続ける
組織を解散して、0からスタートした時、半年ほど悩みましたが、ユーザーさんがナースビーを使ってくださっているんですよ。ユーザーさんの声を聞くと可能性を信じている自分がいます。強い原体験はないかもしれませんが、2、3年、この領域に向き合ってきて、想いは周りに負けていません。
さらに、私は看護師ではないですが海外での経験がある。
例えば、海外展開や、日本の誇るエンタメやコンテンツのパワーを使って新しい形のメンタルヘルスサービスを打ち出すなど、自分なりのビジョンが見えてきました。
当初お手伝いから入った看護師のメンタルヘルス領域だったと思うんですが、今の医療現場に対して感じていることやプロダクトのビジョンなど、氏家さんの思いをぜひ聞かせてください。
社会保障費も上がってきて悪循環が起きています。年々ひどくなっているので、誰かが動かないと変わりません。
日本の素晴らしい医療制度が崩壊しないよう、医療の未来を明るいものにしたいですね。
その中でやりたいことが2つあって、1つは国内で頑張っている医療機関や医療者向けにナースビーを提供すること、もう1つは海外展開をして外貨を稼げるようになることです。
海外での挑戦も視野に
まだ医療に関わって2年ぐらいですけど、医療課題の解像度があがり放置したくない気持ちも大きいです。
なので日本国内で課題解決してから海外に行くというルートを検討しています。
来年は、病院での実証実験、学会発表や研究など、新たな取り組みが始まる予定です。今後もチャレンジを続けます。
(取材:栗林和矢 執筆・編集:asuka)
※記事中の画像は全て氏家さんからご提供いただいております。